コトノハのシズク Blog(仮)

肉の妖精のライフログ。

歩きっぱなし屋久島

旅記をコンパクトに書けないか。しばしば旅記を書いている時が「一番筆が活き活きしている」と言われるワシですが、確かに旅好き文筆好きのワシにとってそうなるのは必定で、ただしその熱の入れっぷりは結果、冗長にして読みづらいものになっているのも確か。まぁ、備忘録と思って書いているので然もありなんではあるのですが。


てことで、先日行った屋久島の旅記を、コンパクトにまとめてみることにトライするのを、執筆前に宣言。しばしば、一日分の旅記が5000文字くらい(原稿用紙10〜15枚程度)に行くのはいつものことなので、今回を三日分を5000文字程度に押さえ込みたい所存。


という前置きが既に冗長だけどな。ここまでの300文字はカウント外!



5月26日(土)。大雨。羽田を発った飛行機が鹿児島空港には無事に降り立ちましたが、そこでのアナウンスは「屋久島行きの便、現地視界不良時は鹿児島空港に戻る『条件付きフライト』です。ご了承ください」そんな用語があるんだ……そりゃ構わないけど、ご了承せずにゴネたら何かになるんかね?


鹿児島空港を飛び立ったプロペラ機は、30分ほどで屋久島上空にたどり着き、高度を落とします。雲は厚く切れ間も無い中、海が近くに見えてきましたが……まだまだ窓の外は真っ白。低い高度まで雲が詰まっています。結果、一度目の着陸はゴーアラウンド。少し上空待機してもう一度トライしますが……再び高度は上がり、基調は着陸を諦めます。


そこそこ彼方此方旅してますが、実はこの、着陸復航からの出発空港に戻ったのは旅人生で初めての経験。911テロの頃、アメリカの空港で炭疽菌騒ぎに巻き込まれたことはありましたが、それに継ぐ私的レア体験でした。しかし、機長も悔しいだろうなぁ、というのは察せるのでもちろんゴネることもなく、払い戻しの手続きを粛々と行います。


航空会社からは、この先の便のキャンセル待ちも出来ますが、空くかどうかはもちろん、席が確保できても着陸できるかどうかは分かりません、との案内。そりゃそうだよね、ということで、ワシはさっさと鹿児島発の高速船の会社に電話をして席を予約。空港を出て、鹿児島市街で昼飯を取って、港に向かうことに。


——二泊三日の屋久島旅。行くことを決めたのはワリと直前だったのですが、とはいえここまでの雨は予想できず、一応いろいろ備えて考えておいたのが役に立ちました。この日、屋久島の宿で聞いたところ、結局着陸できた飛行機はこの後1便あっただけで、宿主からも「良い判断しましたね」と。実際、他のお客さんで屋久島に渡れなかった人も居たそうです。閑話休題。


鹿児島空港からバスで鹿児島市街は天文館へ。ちょうどお昼時、空港で見た「わっぜえか丼」なる『「鹿児島県産黒豚」を使用し「わっぜえか=すごい!」工夫をした丼』キャンペーンチラシに釣られ、その中でも特異な「大隈産うなぎと黒豚のコラボ」丼を食べに、市電で騎射場駅へ移動し、入った店は「うなぎのふじ井」。


鰻と豚?という疑問は食べ始めるまで持っていましたが、食べ始めてみるとこれは「有り」。上に黒豚焼きとキャベツが乗ったご飯、それを食べ進めていくと中から顔を出す鰻の蒲焼き。二段重ねの丼飯です。どちらのタレも濃い味なのですが、そこは工夫ををしているのでしょう、妙な調和が出ていてしっかり食べられ、美味。あわせて、「石の蔵から」という焼酎に鰻胆甘露煮が最高の酒のアテになりました。


種子屋久島高速船ターミナルに移動し切符購入手続き。飛行機が出ないこともあるのでしょう、この日の高速船は既に満席。空港でさっさと予約しておいて良かった。向かいに見える桜島からは噴煙たなびき、黒い灰が服に鞄に体にを汚します。鹿児島に来れば毎度のことですが、こりゃ大変だよなぁ。


高速船内はシートベルトの着用を促されてたことも有り、ほとんど席から立つことも無く、そもそも甲板に出ることも出来なさそうなので大人しくしていました。この船は種子島経由だったのですが、そこで降りたい気持ちはぐっと我慢します。待ってろ種子島、いつかロケット発射施設を見に来るからな!


屋久島に二つある港の内、安房港に着いた高速船。時間は18時半、雨はよりいっそう激しく降ります。船の中から気付いてましたが、山ガールはもちろん、山ミセスや山おっさんぽい格好の人、多数。ワシも山に分け入るつもりですが、形から入っていないので別の意味で異邦人っぽくなってしまいました。


バスに乗り換え宿へ。屋久島滞在中は空港に近い「鹿鳴庵」というところにお世話になります。幹線道路から少し入っただけですが静かな古民家ふうの一軒宿で、とはいえ建物は新しく快適。設備も充実しています。オーナー夫婦も話し好きの良い方々で、滞在中は何かと世話になりました。


さて、楽しみにしていた夕食。首折れ鯖の刺身に飛び魚の揚げ魚と、地のものが満載で味も良い。そして焼酎。三岳はもちろん一杯目にいただきますが、続けて「水の森」「大自然林」という焼酎をいただきます。最近女性杜氏が開発したという「水の森」は、あっさりしていると見せかけてアルコールがしっかりしています。


翌朝&昼用の弁当を注文して貰います。屋久島では、朝からトレッキングに行く人用に、早朝弁当屋といわれる商売が繁盛しているとか。屋久杉に行こうとすると朝5時より前とかに宿を出るので、朝飯&昼弁当は、専門業者に頼むのだそうです。これまた綺麗な家庭風呂に入って、ワシも朝が早いのと飲んだくれたので24時前には就寝。



5月27日(日)。5時半頃、タクシー会社からの電話で目が覚めます。危ない危ない、危うく寝過ごすところだった。宿の近くから安房港まではバスで、そこで予約していたタクシーに乗り換えて向かうは淀川登山口。屋久島最高峰の「宮之浦岳」へ至る登山口ですが……ワシが今回行こうとしているのはその手前、黒味岳。時間的に余裕が見えるのと、私的には「宮之浦岳に登る」より「宮之浦岳を見たい」と思った故の選択。


そもそも屋久島のトレッキングは、登山にしろ縄文杉にしろ、ガイドを頼むのがワリと一般的なようで、ワシも直前まで頼もうかと思っていたのですが、結局他の参加者さんとペースを合わせたり、居たいところに自分一人の意思で留まれないデメリットが、送迎車や案内や他参加者との交流といった良さよりも、自分の中で勝ってしまい、結局、独りで行くことにしました。


登山届をポストに入れ、「ソーシャル登山届」と称してルートをtwitterにも投げ出発。小雨の降る中、登山口から山道に入りますが、鬱蒼とした森の中を歩いて行きますので、雨に当たることもほとんどなく、雨具も使わずにずんずん進んでいきます。比較的遅めの時間に出発したのですが、途中途中、ガイドさんに連れられたパーティを幾つも追い越し、自分的には好判断だったな、と進みます。


清流の流れる山小屋で水を汲み、展望台で疾る雲の中休憩し、小花之江河、花之江河といった山間にある、本州最南端の湿地帯で涼みます。山道は、そんなにきつくは無いですが楽でも無く、登山初心者(てかたまにしか登らない)のワシが、体力にものを言わせれば登れる程度。


登山マップに書かれた想定所要時間よりかなり早く黒味岳への分岐に着いてしまったものの、空を見上げればまだまだ雲は厚く眺望は望めない予感。ということで、少し足を伸ばして「投石平」というところに向かいます。このあたりからは、岩場をロープ伝いに昇降する箇所も出てきて、俄然、登山っぽい雰囲気。


投石平まで来まして、ここも眺望が良いところらしいのですが、残念なことにまだガスは晴れず、左右を流れ走る雲の中、TMRごっこをしてから道を戻ります。分岐に戻り黒味岳山頂方面へ。さすがは山頂付近、結構急な登りやロープ伝いが増えます。ガスは風に流されてますが晴れるには至らず。こりゃ、景色も望めないかな……。


と、視界が開けて、大きな岩場の山頂が見えました。それと同時に、ササーッと雲が晴れます。お……おおっ!晴れた!晴れたよ!すげー眺めだよ!屋久島一望、というには周りの山々に雲が被さっているけど、それに近い景観だよ!


写真を撮りつつ山頂へ。5〜6人の人たちがいますが、みな歓声を挙げています。やはり先ほどまではガスかかっていた様子。そして改めて周りを見渡しますが……5分もしたところでまたぞろ雲に覆われ、視界が奪われるほどではありませんが景色は真っ白に。5分間の奇跡、と言っても良かったかもしれません。


岩場に腰を下ろして、ちょうどのお昼時、弁当を広げます。太陽が見えなくなったので若干冷えますが、また晴れることを祈って、少し後から来たカップルや親子連れと話しながら、1時間弱も山頂にいたでしょうか。結局天候は回復せず、雨こそ降りませんでしたが、ワシは諦めて下山することに。それでも、一瞬の絶景を楽しめたので満足!


ただ、後から来た女性親子の、そこそこお年を召したお母さんの方が、「ああ、残念だねぇ。もう二度と登ってこられないかもしれないのに」と仰っていたのが、他家のことながらグッと心に刺さりまして。旅も人生も、一瞬一瞬を大事にしよう、ってのと、行ける時にたっぷり旅はしておこう、そしてワシも老いた母を、出来るだけ旅に連れてきたいな、なんてことを思うのでした。


来た道を戻りつつ、小花之江河では湿地の中をゆく野生の鹿と見つめ合ったりしながら、やはり想定時間よりは早く登山口に戻ります。帰りはバスの時刻に合わせて考えていたので、少し周辺を散歩し、紀元杉という樹齢約3000年という屋久杉を見学しつつ、バスで宿へ帰還。この頃には、すっかり空は雲が晴れていましたが、さてあのお母さんは眺望が見られたのかな……。


風呂を浴び、今日も今日とて、亀の手の形をした貝の一種「カメノテ」などの地のものをいただきつつ、焼酎は、この頃にはすっかりワシが酒飲みだと把握された宿主が、ちょっとお高いというとっておき「無何有」を出してくれます。がっつり華やかでアルコールも高い逸品。


すっかり酔っ払ったワシは、部屋で小休止と思っていたら、宿主に声かけいただいた星の観望ツアーをすっかり寝過ごして行きそびれてしまいました。まぁ後で詫びに行ったら、気にしないでください、どうせ雲出ててよく見えませんでしたから、とのこと。それはそれとて、ワシは3時くらいに目が覚めて、星の光に釣られて静かに宿の周りを散歩したのですが、ここではものすごい星空が見えました。まぁまだ、波照間島のそれには適いませんでしたが、星充堪能。



5月28日(月)。超早起きからまた1時間くらい寝て、7時には朝食。朝食終わりで、宿のテラスで珈琲をいただいたのですが、ここからの景色が、高台の宿から森越しに海と空が見え、最高の朝珈琲でした。いやはや、綺麗だし、飯は美味いし、酒は色々あるし、オーナー夫婦はいい人だし、随所随所が楽しいし、良い宿でした、鹿鳴館


一旦空港まで送って貰い、一部荷物を預けて、バスに乗り宮之浦港へ。バスを乗り換えて向かった先は「白谷雲水峡」です。ここは、最近では「もののけの森」とも言われていますが、その名の通り、ジブリの映画「もののけ姫」に出てくる森を着想したと言われているところ。木霊を模したキャラなんかも売り出しています。


入り口まで行くバスから見える宮之浦の集落方面がまた絶景だったりしますが、それを楽しみつつ、終着から歩き始めます。なんか、宮之浦で挨拶した独り旅っぽい外国人女性に簡単な英語でルートを説明したり、(後で知りましたが)カナダから来ている日系人女性と少し交流したり、なんともなんともな往路。


雲水峡ではまた独り、自分のペースで歩き始めます。なるほどもののけ姫の森と言われるのも分かる、深い緑の木々や苔、さらに清流が流れ、一昔前のキャッチフレーズなら「マイナスイオンを浴びて森林浴!」とでも言われそうです。マイナスイオンに健康効果なんて無いっての!


基本的に平坦な道ではありますが、多少のアップダウンがあるので、一応はちゃんとしたトレッキングの用意をした方が良いところです。途中途中の清流で喉の渇きやらはすぐに癒やせます。雨の後だったので、ぬかるみもそこそこで、ワシは何度か滑って足を捻ってしまいました。


辻峠と言うところから少しの山道を登り、太鼓岩へ。ずっと森の中を歩いてきた視界が、ここで急に開けます。そこからは、昨日の黒味岳山頂からのものに勝るとも劣らない絶景!広くはないし、囲いも無い、落ちたら軽く一巻の終わりのような大きな岩なのですが、宮之浦岳や天柱石、海の方まで見渡せる、とにかく素晴らしい眺めです。つい30分ほども長居をしてしまいました。


太鼓岩は狭く、そこでの弁当は禁止なので(食ってる人いましたが)、辻峠まで降りて弁当を広げます。そういえば、前夜頼んだ弁当は宿の別の宿泊者が間違えて持って行ってしまったらしく、宿の奥さんがわざわざコンビニまで車で買いに行ってくれました。なんてことない幕の内ですが、前日の黒味岳山頂もそうでしたが、景色や状況が最高の調味料になります。美味し。


さてと来た道を戻り始めますが……うーん、バスを一本遅らせれば、こっちのコースから戻れるんじゃ無いかしら、と思ったのは「原生林コース」。遠回りですが、より原生林を楽しめるようです。よし、来た道戻るだけじゃつまらんし、行ってみよう!


と、分岐からそちらのコースに入ります。道は、往路に通った「太鼓岩コース」よりもアップダウンが激しく、しかもほとんど人も行かないのでしょう、中々にワイルドです。実際、1時間半くらい行程で途中すれ違ったのは外国人カップル一組だけ。追い抜いたことも追い抜かれたことも無かったので、本当にほとんど誰も来ないのでしょう。


それ故か、道は一応整備されていますが、まさに原生林の中をゆく感覚で、よりこの森の深みを味わっている気分です。杉、苔、下生えの草、清流といった原風景。そして人の声もせず、鳥や獣の鳴き声に木々のざわめき、流れる水音と、まるで自分が異世界に来てしまったような錯覚すら覚えます。身も蓋もないこと言えば、歩き疲れたせいもあるのですが。


ついでにと、弥生杉と言われる屋久杉を巡るコースにも足を伸ばして、結果、白谷雲水峡に整備された遊歩道を全部制覇した形に。いやはや、自分の散歩好きは知っていましたが、想定以上に歩きました。


バスで宮之浦に戻り、観光案内所の隣にあるお土産屋さんに立ち寄り。観光案内所の土産Tシャツはどれもイマイチで買う気がしなかったのですが、ここにあった『Garamosta』という島内ブランドのTシャツは結構可愛らしく、つい買ってしまいました。ちょうど今着ているのは歩きすぎて汗だくだし、よし、着替えよう!


と、宮之浦から空港へ向かうバスを途中下車して向かったのは「楠川温泉」。古びた建物の小さな温泉です。ちょうど誰もいなくなったところだったので、広くは無い浴槽を独り占め。鉱泉を温めているらしいのですが、疲れた体には心地よく、すっかりくつろいでしまいました。


再びバスに乗り空港へ。土産を買い足し、今回は良い天気の中、問題なくプロペラ機は飛び立ちます。鹿児島空港では「さつま」という店で肉汁のたっぷり詰まった「黒豚メンチカツカレー」をいただき、最後の飲んだくれをして、羽田へ。光るスカイツリーの存在感を感じながら旅は終焉です。


トラブルから始まりつつ、ほぼ歩きっぱなしとなった今回の屋久島行。さすが世界遺産、ってのも陳腐ですが、歩いていてこれだけ自然を感じ堪能できるのは楽しいものです。そして、今回はやめた「屋久杉」への10時間トレッキングも、行きたい&行けるんじゃ無いか、という自信が着きました。遠からず再訪したいところです。



6000文字強か……ダメだったか。。。


写真は、1枚目が黒味岳山頂から、一瞬の晴れ間の絶景。2枚目が太鼓岩&そこからの絶景。3枚目は白谷雲水峡の原生林コースにて、苔と清流の深森。


参照サイト。屋久島観光協会などはググっていただければ。

鹿鳴館
http://www.yakushima-rokumeian.jp/
楠川温泉
http://www.hikyou.jp/yakusima/kusukawa/kusukawa.html
http://www.yakushima-town.jp/index.php?page_id=270
Garamosta
http://garamosta.p1.bindsite.jp/link.html