コトノハのシズク Blog(仮)

肉の妖精のライフログ。

違う感性、同じ地点(大地の芸術祭2012:2日目)

前回(二つ前のテキスト)の続き。越後妻有アートトリエンナーレ大地の芸術祭」2日目です。ネタバレほんのり有りの長文です。

1日目のテキスト写真一覧(Facebook)公式サイト




8月19日(日)。6時半頃目が覚めて部屋の天井を見たら、鴨居の上に付いている欄間から、朝日を浴びた光が漏れ出していて、綺麗な模様を作り出していました。日本家屋って、こういうところが良いよね。


朝日の欄間


前夜同様品数豊富な朝食をいただき、朝露天風呂をキメ、9時半頃に旅館を出発。この日はまず「森の学校キョロロ【Y019】」へ向かうことに。ここも代表的な施設ですが、実はまだ一度も来たことがなかったのです。その前に、途上にあった「雪アート・ギャラリー【Y085】」に立ち寄ってみることに。


この越後妻有アートトリエンナーレは3年に一度、夏に開かれていますが、それ以外の年や冬にも、この地域を舞台にしたイベントが開かれるようになりました。豪雪地帯で知られる越後妻有エリアで、雪山を使ったアートプロジェクトの模様が展示されているのがここ。そういえば冬に来たことはないのですが、来てみたい気にさせてくれました。展示そのものは地味ながら、こんなことやってるって知れたのが嬉しい。


雪っぽい


さて、キョロロに向かいます。広めの通りからまた少し山中に入っていく道すがら、このあたりの集落としても独自の展示をしているようで、ガイドブックには載っていないイベントと駐車場案内なんかが道ばたに出ています。こういう、言い方悪いけど「便乗」しているのも、このイベント全体としては面白い事象の一つ。今日は時間が無いのでスルーですが、これもこれで見てみたいものです。


溶接で造られたというごつい建物のキョロロは、さすがに中心施設の一つ、駐車場も広く取られています。中の展示は、昆虫を中心に、蛙や蛇、この地域の水生生物など、「生きたもの」と「標本」と「標本を使ったアート作品」が中心。並ぶ水槽、生き物についての展示、カブトムシやカミキリムシが練り歩く部屋、羽にイラストレーションされた蝶の標本、日常雑貨を使った生き物の模型、などなど、見応えのある展示。展望台は、結構登った割りにはガラス窓の中で風を感じられず少し残念でしたが。【Y019,Y020,Y021,Y023,Y024,Y076−Y080】


キョロロ屋外の巨大フンコロガシ

花で昆虫を再現


ドロッと濃い人参ジュースや、友人はちょっと無理をお願いして紫蘇ジュースのテイクアウト(本当は店内のみ)を所望し、体力回復しつつ次へ。まだ昼前ですが、今日も結構な暑さです。車を松代エリアに向けますが、ここで何故かいまだに自分でも理解できていない道間違い。正しいところを曲がったつもりでしたが……結果、行き着く先は同じでしたが、想定よりも山道を走ってしまってドライバーには負担を掛けてしまったのがナビとしては無念。



松代エリアに入り、またも細い山道を駆け上って、駐車場所探しに苦労して桐山集落の空き家展示群へ。大地の芸術祭では、ポイントポイントに駐車場は設けられていますが広くはなかったりしますし、路肩駐車するには道が細かったりで、意外に苦労するポイントが駐車だったりします。


「静寂あるいは喧噪の中で【D209】」は、ワシは前回も来たのですが良さがイマイチ分からなかったもののひとつ。ですが友人は「こういうのも良いね」と結構気に入った様子。「BankART妻有【D134】」は、作品のみならず「みかんぐみ」という集団がこの地に根を下ろして活動するプロジェクトそのもので、これも友人は知っている集団らしくご満悦。ワシも、期間中のみならずここに根を下ろしているっていう活動の仕方は面白いと思います。インスタレーション作品はイマイチ分かりませんでしたが……。


ここを拠点に活動をしているみかんぐみ


「ブランコの家【D266】」は、同じ作者が同じ家で、前回3年前と共通しながら新作を造っています。空き家内に揺れ続ける幾つものブランコや周期的に動き続ける作業機械が、ノスタルジーに似た郷愁と少しの不安を煽ります。ふむ、これはワシでもなんとなく感じ入るものがある。そう考えると、ワシは結局表層的に分かりやすいもの、よく言えばシンプル、悪くいえば単純なものに惹かれるのかも知れません。


山道を駆け下りますが、そういえばこの途上にある「芝峠温泉『雲海』」は、六年前に来た時に泊まった温泉宿。露天風呂から見える眼下の盆地と、早朝は見られればそこに吹き溜まる雲海が美しい眺めの宿です。この日も少し車を徐行させます。やはり途上にあった「清水の棚田」、この地域は棚田とその美しい風景も有名ですが、ここは昨年の長野の震災の影響で崩落し、現在修復中だとか。作品も、もちろん地元にも、爪痕は少しずつ残っているのを感じます。


修復中の清水の棚田


続いて、これもこのイベントの中心施設のひとつ「農舞台【D053】」へ。ワシの中でこのイベントのシンボル的施設というと、十日町エリアの「キナーレ」よりもこの「農舞台」です。ちょうどお昼時の到着で、食堂や土産物屋もあるここは結構な混雑。飯は並びそうだったので土産物屋を冷やかし、施設内・周辺の作品なんかを見学します。


ここ農舞台には、ワシが大きく感銘を受けたというか、8年前に初めてここに来た時衝撃を受けてこのイベントのファンになった作品があって、それが「棚田【D001】」。このイベントの紹介でよく使われているカットなのでご存じの方もいると思いますが、この作品での空間の使い方と、農地、休耕地とアートの関わりというものが、強烈に心に残ったのでした。


棚田。撮影場所が混んでて良い角度の写真が撮れなかった……。


ここもたくさんの作品があるのでとても感想を書ききれないのですが、幾つか抜粋しますと。「里山アート動物園【D169,D224-245】」なんかはバラエティ豊かで面白いし、子供さんは好きそう。「水神【D246】」なんかも子供がじゃれてました。農舞台の一階は吹き抜けているのですが、ここでも大概ミニイベントや出店、無料休憩所なんかがあって楽しい場所です。


里山アート動物園よりパンダのイラスト。もふもふ。


農舞台の、地のもののバイキングが楽しめる食堂は大変な混雑なので、昼食場所を求めて出発。唐突に「ラーメンが食べたい。昔ながらの中華そば風の」と言い出した運転手に「え、ここ新潟の山中……」と思いながらも思い出したのが農舞台からもすぐ、まつだい駅前に「ラーメン」って書かれた店があったこと。寂れたスナック風の外観もあって、8年前から気になっていましたが、わざわざ入る気にも、そもそも入る勇気も無かったのですが、この機会に行ってみることに。


「カプチーノ」という名前のなのにラーメン&中華料理屋でスナック風の一軒家、とツッコミどころしか無いのですが、きっとまつだい駅前に来られたことのある方は同じことを思っているはずのお店に入り、実際中はスナック風、なのに棟上げされた座敷があり、また何故か歌えそうなお立ち台もあります。ラーメンには豆腐が入ってますが、ワシの頼んだ冷やし中華ともども、味は悪くない。むしろ期待してなかった分美味しい気分。閉められたカーテンを開ければ線路の向こうに農舞台が見える良いロケーションなのに、「庭の手入れをしてないから」とカーテンが閉めっぱなしでもったいない!(開けるのは問題無かったですが)



14時半も周り、帰りの時間を考えるとレンタカーを返す十日町に向かいながらもう少し見られるかな、というところ。国道253号線を東に向かいながら松代エリアと十日町エリアの間にある薬師トンネルを抜けてすぐ脇道に入り名ヶ山集落へ。「その森のできごと(名ヶ山写真館)【T109/T243】」に向かいます。ここは、ワシの好きな空家プロジェクトのひとつ。


と言ってもメインの、土地の人々の写真や、死と生にまつわるインタビュー、遺影が撮れる、といった部分ではなく(いやそれも悪くはないですが)、この空家の部屋から外に向かって解放されている座敷からの眺め、そこに吹き込む風の匂いがたまらなく好きなのです。この日は人も多く、またそのお気に入りの席(座布団)を陣取ってしまっていた方がいたのでゆっくりいられなかったのが残念でした、ここは地点として大変お気に入りです。


そのお気に入りの場所を前回行った時の写真から。


山中をさらに進み、運転手が見たいという「6つの徳の物語【T019】」を目指します。これも恐らく、ワシには中々理解しがたい作品のひとつ。その途上の鉢集落の公民館のようなところの屋外で音楽演奏をしていたので、休憩がてら車を止めて拝聴することに。


なんでも、十日町の福祉施設職員で作っているジャズバンドのようです。演奏のレベルはぶっちゃけ全然、MCも拙いですが、集まった集落のお年寄りたちが楽しめそうな曲を演奏し歓声を受けています。潜り込んだ我々に、集落のおばちゃんたちが飲物や漬け物とかを振る舞ってくれます。これも、ある意味大地の芸術祭が生み出している派生のイベントだと思いますし、生まれている人々の、地元の人と旅人の交流でもあると思います。これがたまらん。


松田聖子や70年代洋楽なんかを演奏


「鉢の石仏」という史跡の近くにたたずむ「6つの徳の物語」は、森の中にあって孤高さすら感じます。テーマと造形を見比べると中々面白みを増してきますが、やはりワシよりは遙かに面白がってみている運転手を見ている方がむしろ面白い。


ほど近い有名な作品「絵本と木の実の美術館」は、時間も無く、ワシも友人も行ったことがあるのでスルーして十日町の市街地へ。レンタカーを返してほくほく線、新幹線と東京に帰って参りました。



今回巡って。まぁ相変わらずこのイベントがワシ好みなのは今更なので置いときますが、アートを知っていてそれなりに言葉に出来る、でも感性の違う人と一緒に回るのは面白いな、ってのがひとつの収穫。いやまぁ、そんなのは東京の美術館でも同じことですけど、例えばこれだけ広域だと、ひとりだと見に行くものの種類って限られると思うんですよね。でもそれを、そういう感性の人と行く先の作品を選ぶことで自分が普段なら見ないようなものを見て、知らないことを知る。


そこで、思わぬ面白さを発見するかもしれませんし、やっぱり自分には分からないな、となってしまうかもしれない。どう転んでもその作品を見て何かを感じた(あるいは感じなかった)経験そのものが、自分の感性を磨いたりその幅を増やしたりしてくれる、そんなことを思いました。


2012年の大地の芸術祭一回目がこの時。明日から行く今期二回目の来訪までに書き終わりました。明日は実家の家族と周り、明後日は家族とは分かれ大学の先輩たちと合流し、あわせて二泊三日で行ってくる予定。またぞろ、全く違う人たちと巡り、何を発見できるか、とても楽しみな週末です。