コトノハのシズク Blog(仮)

肉の妖精のライフログ。

越後妻有、何度目かの夏(大地の芸術祭2012:1日目)

越後妻有アートトリエンナーレ大地の芸術祭」を知ってから早8年。イベント自体は12年目5回目の開催年となりました。この8年間で、3年に一度の開催年期間中はもちろん、それ以外も含めれば年に一度くらいのペースで行っている、リピートをしない旅ばかりのワシには珍しい土地であり、イベントです。

公式サイト
http://www.echigo-tsumari.jp/


それは、この土地が好きになったことはもちろんですが、地元とアートが結びついていて、その様が作品にも活きているから。(様々な問題を孕んでいるのは承知しつつも)ここまでその融合が進んでいるイベントを、他に知りません。


てことで、開催年である今年、とりあえず一回目行ってきたのでその記録であります(一回目?)。ネタバレほんのり有りで書いておりますので、気になる方は読み飛ばしのほど。また、【】内は作品番号。サイトや地図なんかと対照できます。また、写真一覧はこちらから(Facebook)。



8月18日(土)。東京からの上越新幹線を越後湯沢で降りて、北越急行ほくほく線)「はくたか」に乗り換え十日町駅へ。大地の芸術祭のベースになる町です。駅前にはいきなり歓迎の休憩所が設けられていて、地元のお母さんたちが、自作の漬け物や土地のお野菜、お茶を振る舞ってくれます。ありがたくいただいて駅前のレンタカー屋へ。免許をもたないワシですが、今回はこのイベントも好きな友人が運転をしてくれるので、車で回れることに。


一応、新幹線の中で、ワシと友人の見たいものをすりあわせて、ほんのり一日目のプランを考えていたのですが、それら全てをすっ飛ばしたのが、十日町駅で見つけた「黒米蕎麦」と書かれたチラシ。ちょうどアート作品の近くのようだし、営業時間にもなっているようだし、よく分からんけど美味しそうだし……ということで、全く想定していなかった「枯木又」という集落に向かいます。


思っていたよりも遠く、十日町駅から30分ほど走って山中たどり着いたのは、「のっとこい」という名前の交流施設。ぶっちゃけ、誰がここまで来るんだ、というところにあったりしますが、これもまた、ひとつの地域振興なのでしょう。ちなみに向かいながら「のっとこい、ってことはNot来い、すなわち来るな!って意味で、騙されているんじゃないか」なんて馬鹿話をしたこともご愛敬。


細い道の左右に林と田んぼが広がる中、田んぼの中に龍を象った大きな造形があります。大地の芸術祭の展示物では内容ですが、ここで「枯木又プロジェクト」をやっている、京都精華大学とアーティストらの作品の模様。この土地の守り神である竜神様をイメージしているようです。

さてその施設。とても新しく綺麗で、中に入ると地元の人と学生さんたち。京都精華大の学生さんでしょうか。「のっとこい」は「あったかい」という意味だと教えて貰いながら、注文した黒米蕎麦を待ちます。へぎそばの名店「小嶋屋」の協力を得ている通常版と、ここで学生さんが打った「手打ち黒米そば」。さらにセイロ以外の器も、学生さんが焼いたもののようです。


通常版は、へぎそばらしく布海苔をつなぎに使っているとかで、スルスルッと喉越しの良い品。ほんのり黒米なのかの風味が漂います。手打ちの方は荒々しい田舎そばで、風味も強め。この地で取れた野菜を使っているという天ぷらとあわせて、大変美味しくいただきました。


これは手打ちの方。

朝食だか昼食だかを腹に入れ、廃校を使った「枯木又プロジェクト」へ。古めかしい校舎の周りにアート作品が飾られていて、これがこのイベントのシュールさで有り、魅力。校庭の木にジャングルジムを取り巻いた「キセイ・樹【T266】」は実際にジャングルジムに登ってみました。気持ちいいー。

大地の芸術祭」ガイドブックに載っていない作品も校舎内に展示され、二階にあった、床に墨汁の水たまりを置いて黒板や窓を反射させたものなどは、結構好きです。まぁ、「(この学校に残された)記憶を映す」といった(恐らくの)分かりやすさもあるのですが。

竜神様の社に挨拶をして、山道を十日町市街に向かいます。市街地に戻った頃には当初予定の二時間押し。長い寄り道でしたが、思わぬ面白いものが見られて食えたので満足。市街への途中、友人の見たがっていた「Kakashi(案山子)【T270】」に立ち寄り。農作業用鳥追いテープで作られた造形で、鮮やかで風が吹くと音が面白く響きます。

続いて、市街地にある十二社神社の境内の「山ノウチ【T242】」。参道の階段を登った先、境内地に針金で通路と造形を作り出します。神主心得見習としても、またこの作者の前作が面白かったので来てみましたが、ワシ的にはちょっと、期待外れ。町を見下ろす風景と境内地にアートがある違和感は、良かったのですが。

国道117号線を南下して、土市・招魂社にある「風の音【T277】」へ。同じ作者の「土の音【T075】」と一緒に展示されています。少ししんどい丘登りをした先、森の中に無数の風鈴が吊されており、風が吹くとそれらが共鳴をし始めます。で、これが例えば立っている位置によっては、右の方からは聞こえるけど左からは聞こえない、すなわち、この丘の上の「風の通り道」を感じられるのです。


「土の音」も自分で奏でられます。

透明な短冊は、陽光を受けてキラキラ輝き、音と光と風と森のざわめきときらめきが、このひとところに集結したかのような空間。これはお気に入り。


動画でも是非。

さらに南進して脇道に入り、「再構築【T155】」へ。このイベントが特集される時の写真に結構使われているので見たことある方も多いかもですが、蔵のような家のような建物に何千枚もの鏡が貼られていて、外に向けては周りの風景を、中では自分自身の姿なんかを美しく、少し怖く写し出しています。蓮コラがダメな人にはきついかも。ワシは、この力業っぷりが好きな作品です。



中と外。

また移動を開始し途中、コンビニで小休止。もう15時過ぎで、日差しも強く、もっとも暑い時間帯。運転手も大変ですが、この大地の芸術祭巡りでは、結構ナビするのも大変なのです。どの路地を行くとか、気をつけていないとすぐに見逃してしまいますし、山道も多いので一筋縄では行きません。


「中里エリア」に入って「ポチョムキン【N019】」に向かう途中、桔梗原集落「桔梗原うるおい公園」に立ち寄ります。ここにもよく紹介されている「たくさんの失われた窓のために【N028】」があり、ワシは初めて来たのですが、意外に良かった。階段を数段上って見るのですが、上る前に見る風景とまるで変わります。

さらに、流木を使った造形の「芯木【N063】」、木々の中に巨大な輪っかを通した「森とつながる【N027】」を見学。前者は、ぱっと見はイマイチでしたがよくよく造形を見ていくと面白い作り方をしていて、最後は木と握手。後者は、うーん、ワシにはパッとしないものでした。どちらも、作品のすぐそばにある神社や田んぼが美しかった。神社では、境内にあるブランコに乗ってみたりしちゃいました。


「芯木」

「森とつながる」近くの田んぼ

次の倉俣集落まで車を走らせますが、途中、突然の通り雨が、結構強くフロントガラスを叩きます。駐車場に車を置いて雨宿り。周りの水滴と繋がった雨水が外の風景をにじませます。

小降りになってきたので外へ。「ポチョムキン」は長年ゴミが不法投棄されてきた場所に、廃材っぽい金属板を使って建築物を建て込んだ大型の作品です。ここにも、山や川を眺めながら乗れるブランコなどもありますが、ここに来たがった友人の期待は、「ニブロール」という舞踏集団のパフォーマンスがちょうど開かれていてそれを見たかったから。


「ポチョムキン」のごつい造形。

ところが係の人に伺ったら、なんでも準備が間に合わなくてそれはやらず、でも、近くの小学校の体育館で練習しているから見学して良いですよ、とのこと。中々に吃驚ですが、ならばと、小学校に上がり込んでみます。ワシはコンテンポラリー・ダンスに明るくないのでよく分からないのですが、彼らのこだわりの感じられる練習風景でした。


越後田沢駅に併設して「船の家【N060】」という建物が建てられ、その中に「未来への航海【N061】」「水から誕生した心の杖【N062】」が展示されていると言うことで、立ち寄ってみることに。駅前広場が駐車場になっていましたが、駅舎にならんで建てられたテントでは、地元の人が野菜や陶器を売ったり、ちまき作り体験なんかをしていました。


作品でもそうですし、作品の近くにでもですが、こうして地元の人がその管理や説明、時には無料休憩所を出していたり何かを売っていたり、こういう光景、冒頭に言った「地元とアートの融合」が、何よりこのイベントの面白いところ。雪下人参のジュースなんかを飲んで作品を鑑賞しつつ、ちょうどやってきた飯山線の列車を眺めたり、使われていない線路を少し歩いたり。


越後田沢駅に咲いていたひまわりと影。

「船の家」は単純に建物ですが、黄色い木材の隙間から陽光が入り込み、柔らかいライティングになっています。「未来への航海」はノアの箱舟がモチーフとのことですが、なんとなく面白みが分かります。「水から〜」は水槽から湧き出る農具が飾られたインスタレーションですが、うーん、まぁこれはこんなものか。


「船の家」

「未来への航海」

飯山線沿いを離れ、松之山エリアへ。本格的に山の中に入っていきます。時間は17時近く、ワリと閉館近くなってましたが滑り込んだのは、今回、実は一番楽しみにしていた上鰕池集落の「上鰕池名画館【Y089】」。誰もが知っている「名画」に似た構図で、この集落の人々と集落を背景に写し、この集落の物語(風習など)を、少しこじつけて書き添えた作品が、二階建ての古民家をギャラリーに仕立てて飾られます。


いやはや、これは面白い。これこそ融合。元ネタを踏まえれば「パクリ」なのかもしれませんけど、それを超えて「作品」として成立させています。また書き添えられた「写真の解説(物語)」が秀逸。「最後の晩餐」を模したものなんか、田植え終わりの宴会で、区長を中心に座る位置が決められてる、って設定だったり。


「叫び」ふう

「レースを編む女」ふう

最後の晩餐」ふう

イベント期間中の建物での展示は、たいがい10時(一部9時)から17時30分まで。駆け込みで、近くにある「家の記憶【Y072】」へ立ち寄ります。ワシは前回も来ましたが、確かにすごい時間も力も掛かっているし、なんとなく意図も分かるんだけど、イマイチ入り込めない作品です。

さて、一日目はここまで。ということで、宿に取っていた「松之山温泉 植木屋旅館」へ。温泉街からは少し離れた山の上の一軒宿です。比較的安く、料理と温泉の湯が自慢、ってことで取ったのですが、確かに、飯も温泉も良かった!


源泉掛け流しの露天の温泉は、茶褐色でしょっぱく、かなり温泉成分が強いです。お湯も熱すぎず、他に誰もこなかったので、ヒグラシの声を聞きながらたっぷり楽しみました。夜入った屋内の温泉も結構な温泉成分っぽさ満載で、熱風呂と温風呂二つの浴槽交互に入ると、疲れながら疲れが取れました。


料理も、品数豊富で味も良い。宿で作っているという野菜や日本海の海の幸などなど、ちょいちょい一手間かけて美味しく仕上げていて、大満足。宿としての歴史も古く、設備も結構古めかしいですが、それを補って余りあるお宿でした。


すっかり酩酊して、翌日の作戦会議もほどほどに睡眠。目が覚めて、3時くらいに窓から外を眺めたら、期待通りの満天の星空が広がっていました。そういえば、ホタルも運が良ければ見られるってことでしたが、酔ってすっかり忘れてましたな。