ケン・ヒル版オペラ座の怪人
オペラ座の怪人といえば、いまやアンドリュー・ロイド=ウェバー版のミュージカルが水準器と言っても良いほどだが、その初演の10年前、1976年に初上演されたのがこのケン・ヒル版。オペラ座の怪人という作品(原作はガストン・ルルーの1909年の小説)において初のミュージカルで、ロイド=ウェバーも見に行っていてインスピレーションを得ていたのだとか。
本来は作品単体で感想を記すべきなんだけど、本作はどうしてもロイド=ウェバー版(LW版)と比べての見方になってしまうので、もう割り切って比較で記すこととす。あと、ネタバレではないけど感じた雰囲気を書いているので、これから見る方で虚心に見たい方は踵をお返しいただきますよう。
こんなコミカルなオペラ座の怪人あるんだ!というのがファースト・インプレッション。LW版がホラーミステリー感を出しつつ基本的にはラストまでシリアスで押し通すのに比べると、随所に笑いを入れ込んできていて、ワシの考える一般的な劇場演劇に近い。その意味で見慣れた構成ではある。
怪人は、より「男」としての欲望というか恋情にまみれている感じがある。LW版が少し神秘的に描かれているのに比べると、俗物的。
そして音楽は……良かった!掴みのある入りのあるもの、全体を包み込む音色、各シーンに合ったすてきな楽曲の数々だし、LWが影響を受けていると思えば、LW版のあの曲はこの辺の影響を受けているのかなー、なんて妄想もできる。
その上でというか、それ故にというか。
LW版の音楽の素晴らしさが際立って感じた。良いミュージカルは名曲の連続とはいつも思うが、やはりLW版がこれだけ支持され30年以上の長きに渡って愛されている、その最大の力はあの音楽群のおかげではないかな、そんな思いを確信した。
総じて。充分に面白いのだけど、同じ原作という観点で見ると、後続のLW版(の特に音楽)が優れ過ぎていて、なかなか難しいな、と。でもきっと、こっちの雰囲気が好きな人もいると思うので、その辺は嗜好だなぁ、と。
帰ってきて、LW版25周年の時にロンドンのロイヤルアルバートホールで上演された際のBlu-rayを見ながら、そんな思いを感じておりました。