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肉の妖精のライフログ。

これは展示か演劇か〜【ネタバレあり】「目 非常にはっきりとわからない」鑑賞記

「目 非常にはっきりとわからない」展を見に千葉市美術館へ。何かと話題で、SNS上では暗黙のうちにネタバレ禁止が合意され、最終的にはチケットを求める人の列が2時間に達したという(ありがたいことに事前にチケットは手に入れてたので入るのには並ばなかった)。

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そして、ワシはモヤっとした。


や、悪いワケではない。なるほど面白味も体験する価値もあると思う。


たぶんワシの違和感は、ミステリーで「新本格派の旗手、登場!」という紹介文の小説を読んでみたら、意外とありきたりのトリックだった時の気持ち。


で、会期も終わったので、内容のネタバレありで感想を書いてみる。

 

今回は「展示として見た時の視点」とは別に「演劇として捉えた時の視点」を盛り込んでみたい。

 


 

こっからネタバレあり。

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▼中身

展示は千葉市美術館7階と8階を使って行われ、どちらから見ても良いと案内される。まず7階で降りたら、壁面が全面的に養生され、設営中といった雰囲気。大きくは3つの展示室が使われ、そこでは実際にスタッフらしき人が物を動かして設営をしていたり、工具やテープが散らばって置かれていたり、中途半端な状態でいろんなものが放置されていたりする。

 

なんか狐につままれた気分で、階段も閉鎖されているのでエレベーターで8階へ登ったら……え、7階と全く同じ空間!?

 

養生された壁から、設営中のような雰囲気から、展示されているものまで、ほぼ全部一緒。特に驚いたのは、7階でスタッフが動かしていたものが、全く同じ配置で置かれていたこと。これ、どういうふうにリアルタイムでシンクロさせてるんだろう?

 

階数表示も目隠しされているので、何度か7階と8階を行き来したが、自分がどっちの階にいるのか徐々に分からなくなる。空間の位相が重なり合い、認知の壁が崩壊していく。そんな体験ができる場所だった。

 


▼展示として

展示として見た時の感想は、たぶんフェアではない。というのも「あれ、こういうの知ってる」が先行して来てしまい、ネタそのものにはたいして驚けなかったからだ。ただそれをこれだけの空間を使って、先に書いたように何度か階を往復したが、ほぼ寸分違わず設置しているのはすごい。

 

で、こういうのに初めて触れる人にとっては、やはりこの体験は特別かもしれない。理解するまでのタイムラグは人それぞれだと思うけど、気付いた時の「アハ体験」的なものは心地よいと思う。

 

と同時に、説明がなさすぎて、自分の理解が正しいのか不安にもなるのではないかな、とも感じた。まぁこれについては、アートに「正しい理解」なんてものは存在せず、(基本的には)自分の感じたものが全て、という前提にたつしかない。

 

また、展示されている作品そのものは、時計の針だけが幾つも空中に浮いているものや、よく分からない現代アート感のある壁、江戸や明治期に描かれてそうな絵画や屏風と統一感がなく、それはもちろん主体が「空間そのもの」故の結果だろうけど、なんか作品そのものが軽視されているように感じたのも、微妙さの原因かも(ワシが知らないだけで有名な作品なのかもしれないけど)。

 


▼演劇として

説明がなさすぎるものだから、もちろんこの展示を演劇として見る人はそんなにいないだろうし、その見方が正しいわけもない(正しさなどない)。ただワシは、展示として見た時に感じた微妙さが、演劇として見ると違う形で捉えられて面白さになってるな、と思ったのだ。

 

先述の通り、展示内ではスタッフが実際に動いて設営や物の移動をしている。それがどういう仕組みで、どういうプロンプトに基づいて行われているのかは分からない。ただ、この2フロアの展示室を造っているのが「ヒトである」こと、その息遣いが感じられることが面白かった。

 

逆に言うと、一時的に人が全く動いてない(スタッフの姿がどこにも見えない)時間帯があったのだが、これ、この時間帯に来ちゃった人には不親切だな、とまで思う。この展示は空間に動く人がいて初めて成立する気がするし、繰り返しになるけどその演劇的アプローチは面白いと思うから、片手落ちに思えてしまう。

 


▼総括

とまぁ、なんとなく皮肉まじりに書いているように思われるかもしれないんですけど、ワシとしてはここまで「感じたことを言葉にしたくなる」展示だったというだけですごいなと思ってるので(普通の展示ならここまで言葉は出てこない)、やはり行けて、見られて良かった。

 

あと、ネタバレ禁止で、ちょっとすごいなと思えるものを見せて口コミで広める、これ自体は去年の映画「カメラを止めるな!」でも生まれた状況だけど、マーケティング的には大成功なんだろうな。それも素直にすごい。

 


▼おまけ
というところまで書いて、昨日出ていたという公式によるネタバレというか座談会というかを読んでみた。
https://www.yusukefujiki.com/post/%E3%80%8C%E7%9B%AE_%E9%9D%9E%E5%B8%B8%E3%81%AB%E3%81%AF%E3%81%A3%E3%81%8D%E3%82%8A%E3%81%A8%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%80%8D%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%80%8C%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E3%81%A8%E7%9B%AEm%C3%A9%E3%81%8C%E5%AF%BE%E8%AB%87%E3%80%8D

あながち、演劇的という指摘は(主催者意図と照らし合わせると)間違ってないのかもしれない。

 

あと、こちらの方がネタバレありで、より丁寧に、よりエモく書いていらっしゃって、楽しく拝読。
https://note.com/3214moi/n/ne6fe46bd7b7f