コトノハのシズク Blog(仮)

肉の妖精のライフログ。

宇宙兄弟と、千葉の兄弟

ケネディ宇宙センター、2010年4月5日6時21分(アメリ東部標準時)、スペースシャトルディスカバリー」号リフトオフ。日本では同日19時21分。兄貴はこの打ち上げを見てくれているかな……辺りを包む熱風を浴び、遠ざかっていく噴射煙を見ながら弟は独りごちた。

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打ち上げ3秒後

 

なんて書くと物語っぽいけど、現実は生放送の本番中だし、初めて生で見るスペースシャトル打ち上げの興奮だしで、そんな感慨に耽っている場合じゃ無かったね!

ということで、10年前のお話しを急に書き出しているけれども、当時少しだけ書いてそのまま放置していたテキストを発掘したので、諸々加筆修正して書いてみようと思い立った次第。本当は打ち上げからちょうど10年に合わせてアップ出来れば良かったんだけど、見つけた時には過ぎていて、さらに4月中のつもりが5月になってしまったけど!

当時、ニコニコ生放送のプロデューサーをしていたワシは、宇宙や科学関連の番組も担当していて、JAXAと一緒に番組を作ったり、NASAの映像を中継する番組をやっていた。特に宇宙船の打ち上げは人気コンテンツで、JAXANASAともに提供いただく映像を使いながら、独自で番組も作っていた。

個人的にも幼少のみきりから宇宙が好きで、小学4年生の終業文集に将来の夢を「天文学者」と書き(翌年には変わってたけど)、同じ頃ハレー彗星を何とか見られないか頑張り(無理だった)、大きくなってからも「プラネテス」を愛読し、その後「宇宙兄弟」にハマったワシ。だから、仕事で宇宙に関われたのはすっごく嬉しかったんだけど。

現地に行けない。

プロデューサーなんて仕事は基本的にはデスクワークと渉外であって、現地で番組を作ってくれるのはディレクターや技術スタッフ。ネットの番組なんて他にほとんど無い時代でもあり、すなわち予算もいつもキュウキュウで(今もだけど)、その予算を見る方が仕事なので、仕方ないと言えば仕方なかった。

ところがどっこいしょ。ひょんなことから、山崎直子宇宙飛行士も乗るNASAの「STS-131」(ミッション名)で打ち上げられるスペースシャトルディスカバリー号」の打ち上げ中継に同行することになって、アメリカ大使館に行って生まれて初めてのビジネスビザを作り、ワクワクと準備を進めていた。

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打ち上げ前日、メディアはシャトルのすぐ側まで行ける。

当時ワシは千葉の実家に住んでおり、兄貴とも漫画の貸し借りをよくしていたのだが、幾つかある兄弟揃っての愛読書のひとつが2007年から連載の始まっていた「宇宙兄弟」。すなわち兄弟揃って宇宙好きで、どちらも宇宙に行くことはなかったけれども、宇宙好きの兄弟ってことなら我々も「宇宙兄弟」だなぁ、なんて思ってたものだ。

ワシがNASAに着いて、大興奮しつつも番組の準備にキリキリして、でも兄貴にはNASAで見たあれやこれやを土産のようにメールで送ってた。どっちも宇宙好きなんだから当然だ。そうしたら、返信のメールにボソッとこんなことが書いてあった。

「まるで俺たち、『宇宙兄弟』みたいだな。オマエはNASAにいて、俺は千葉にいて」

宇宙兄弟をご存じない方の為に書いておくと、物語の前半は宇宙飛行士として月に行く弟ヒビトと、そんな弟を誇りに思いつつ羨ましく見守る兄ムッタが、対照的に描かれている。その後ムッタも宇宙飛行士試験に受かり宇宙に飛びだしていくのだが、この頃は、優秀な弟とイマイチな兄、みたいな対比が物語ではされていた。

スケールこそ違えど、確かに我が家も、いま弟はNASAにいて、兄は千葉にいる。優秀かどうかはともかく、好きな宇宙に関することで、立っている場所は大違いだ。

ああ、とその時思ったのだ。「ありがとう」と。

弟であるワシは、エンタメ業界でしんどいながらも好きな仕事をして、たまたま入ったITベンチャーで携わった仕事は、日本のインターネットを代表するサービスのひとつになり、その中で様々なカルチャーに触れ、おこがましい言い方ではあるがその誕生に多少なりとも寄与してきたと思う。

でもそれが出来ているのは、公務員である兄がきちんと家を支えているからなんだ。兄貴の存在が、弟を自由にしてくれているんだよ。だからここにワシが立てているのは、兄貴のおかげでもあるんだ。

なんてことは恥ずかしいから兄には伝えず、せいぜいたくさんの写真を撮って、お土産を兄嫁やお袋も含めて買っていったくらいだけど。

宇宙兄弟」の中でも、弟ヒビトは、兄ムッタを信じている。「ムッちゃんなら出来る。早くこっち(宇宙飛行士)に来るんだ」と、声に出さずとも兄を信じている。宇宙兄弟が好きな千葉の兄弟も、声には出さないけどお互いを信じて生きていけたなら良いな、なんて思った。

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打ち上げ後、その噴射煙と朝日が生み出した、龍のような、奇跡的な造形の雲

▼以下はおまけ。

【打ち上げ関連写真集】

photos.app.goo.gl

 

【当時の映像】
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シャトルからわずか2マイルのところでの中継。ユーザーさんがキャプって上げたものだけど、時々出てる。

 

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NASAのオフィシャル映像。迫力。

 

【当時のワシのブログ記事。文体が恥ずかしい】
tomosaku.hatenablog.jp

下見でNASA構内を走り回ってる。

 

tomosaku.hatenablog.jp

打ち上げ6時間前。

 

tomosaku.hatenablog.jp

打ち上げすぐ後のテンションで上げた記事。

tomosaku.hatenablog.jp

打ち上げの前後を写真と共に振り返ってみた。