デミタスは、カップまでほろ苦い
デミタスという珈琲の飲み方を知ったのは大学時代。足繁く通っていた好きな喫茶店で出していて、その苦味と旨味にすっかりハマってしまった。今もその店に行くとオーダーは必ずデミタスコーヒー。砂糖もミルクも入れないことをすっかり分かっているマスターは、スプーンを付けずに出してくれる。
デミタスコーヒーの魅力はその味そのものなのはもちろんだけど、供される小さなカップにもあって、「小さき(ちさき)を愛でる」感覚があれば見ているだけでも飽きない。そんなワシの前にぶら下げられた群馬県立近代美術館の「デミタスカップの愉しみ」展に、会期延長の最終日に滑り込んできた。
とまぁ、長い前振りだったけど、感想とかワシの言葉なんてどうでもいい!いいから見て!というテンション。
一品目から最高に可愛くてデザインも優れていて、後はずっとひとり、心で快哉を叫んでいた。
そして、久々にやってしまった。軽く200客以上はあったんだけど、全部写真撮っちゃった……。
だったらカタログ買えよなんだけど、見当たらなかったん。写真はそん中からこれでもセレクトしたんだけど、それでも76枚分。好きすぎる。
今回の展示はあるコレクターの方のものを大放出した感じなんだけど、きちんと歴史や系統、文化を踏まえたキュレーションがされていて、その点で勉強にもなった。
今まで漠然と愛でていたものの解像度が上がる感覚。最近見ていた、他展の焼き物の解説ともリンクしたりして、詳しくないなりにレベルアップできたかも。
当日朝まで迷い、それなりに遠かったけど、行ってよかった。大満足!
幻影を見せられたのは誰か
「冨安由真展|漂泊する幻影」(神奈川芸術劇場(KAAT))観賞感想。昨日行ったばかりだけど明日で終わってしまうので、急いで書いちゃう。
さて、本展ノーマークだったのを友人に勧められて見に行ったが、まずは行って良かった。だけどこれ、感受性豊かな人というか、妄想の滾る人にはキツい展示だと思う。キツいというか、想像(妄想)が止まらないとでも言うか。
や、ものすごくシンプルに捉えることもできるんだよ。でも、複雑に思索し始めればどこまでもフクザツにできる。
会場はKAATの中スタジオ。場の使い方としても上手いなと感じたし、世界を構築していた感がある。この空間-ーこの場合、空間とはほぼ世界と言い換えても良いんだけど、この世界をどのように捉えたか、誰かと語りたくなる。
近年自分が体験した中から近似のものを見つけるなら、千葉市美術館でやっていた「目-非常にはっきりとわからない」。どこか不思議な所にトリップし、そこで起こっている「何か」に思考が囚われる。そんな感じ。
写真を幾つか挙げてるけど、この作品は写真を見てもあまり意味はない。あの場、あの世界に囚われて初めて思索がスタートする。なおワシは一周して数瞬思索して、二周目を巡った。
何だろうね。絶賛とも違う。斬新とも違う。でもワシは確実に心に染みを付けられたし、この世界を体感できたことは良かった。
2020旅メモ+私的絶景
例年通り、あんまり1年は振り返らないけど旅と本は別腹、ってことで旅振り返り。
例年なら15〜20回は(日帰り、近距離含め)旅をしているワシだけど、今年は7回。あれ?例のアレで5回くらいかと思ってたけど、意外に行ってた。まぁ上野の宿とかもあるけど。
2月
佐賀、長崎:美味いもの巡りツアー
(筑後川昇開橋)
(長崎バイオパーク)
2月
大阪:国立国際美術館と美味いもの
3月
岡山:ブラジリアンパーク
(ブラジリアンパーク)
(鷲羽山展望台より本四架橋)
(備中松山城の、自然と人口の石垣)
3月
(上野公園の桜)
9月
#東京東西徒歩踏破 :徒歩で110km歩いて、だいたい東京都を横断(島嶼部除く)
(西武線のすてきな平面交差)
(奥多摩湖)
(奥多摩湖の奥の方)
10月
高尾山:寿司ついでに登山。今年唯一の登山
(高尾山山頂より富士山)
11月
滋賀、岐阜、名古屋:美味いもの巡りツアー
(彦根城)
少ない分、旅先で絶景に出会うことも少なく。まぁこの不完全燃焼感は今年はやむ無し。その分、仕事で建物と屋内だけどいろんな絶景見られたし。
でも、去年を振り返ると、本当に素晴らしい景色に出会えていたなぁと去年の自分を羨むね。
キュレーターの素晴らしさ
「日本美術の裏の裏」(サントリー美術館)鑑賞感想。
良かった、すごい良かった。もしかしたら最近見た中でも一番かも。
別に国宝級の作品が来てるとか、初展示のものがあるとか、そういうことじゃない。見せ方の切り口、解説文のセンス、空間の作り方、すなわちキュレーターが素晴らしいのだ。
まずはファサードから第1テーマ「空間をつくる」に掛けての空間の作り方が本当に良くて、いわばツカミはOK。月と富士山の描かれた武蔵野図屏風とか見惚れる。ちょうど鑑賞時期に、洛中洛外図屏風の出てくる小説を読んでいたので、作者はその小説と違えど見方の解説がされてたのすごい良かった。
第2テーマ「小をめでる」では、まるでドールハウスの小物のようなアイテムが、江戸時代に手作りされていたことに驚く。緻密な造りそのものが素晴らしいし、実物と並べて置く展示も良い。
第3テーマ「心でえがく」は、いわばヘタウマを集めた展示。見ているとどんどんとジワる絵巻などが並んでいる。技巧の巧拙に関わらず、自由に描いてるその心意気がいいなぁと感じる。ワシも絵心がないので下手さは負けないのだけど、心の赴くままに描いてみるのもいいのかもしれない。
第4テーマ「景色をさがす」。ここでいう景色とは、焼き物を焼く際に偶然作り上げられた多彩な表情のことらしい。なるほど窯に入れたら出すまでいじれない焼き物は確かに偶然の産物。角度で変わる印象を楽しむのも一興と知る。
第5テーマ「和歌でわかる」駄洒落かーい。和歌を詠むことをラップバトルに喩え、和歌を知ることで見えてくる世界がある解説には納得。
第6テーマは「風景にはいる」。絵の中に描かれている人の目線から景色を見てみよう、という提案は、なるほど絵の見え方を少し変えてくれる。
元々絵画にも日本美術にも明るくないワシだけと、この展示を通じて見方というか、こうして見るのもありなんだ、と一つのスコープを渡された気分。最後、徒然草第52段の絵巻になぞらえて書かれた解説「本展が日本美術の愉しみ方を知るガイドに少しでもなってたら幸いです」すごいなってる!ありがとうございます!
What is 東京
「MANGA都市TOKYO」(国立新美術館)鑑賞感想。とっくに終わってしまったけどログしとく。
さて本展。「東京」を軸に、主にマンガやアニメやゲームのパーツとしての東京を追った展示。
うーーーん、面白い、面白いんだけど、なんだこの違和感。何か解せないものが腹にわだかまる。
で考えてみて。何となくだけど「東京」の捉え方が、キュレーターとワシとで異なるんだろうな、という気がした。
東京を特別視しすぎてはいないかという感覚があって、まぁこの展示がそこを軸に組み立ててるのだから当たり前なんだけど、なんとなく、その特別感が腹落ちしなくて。
でもそれと同時に、東京という概念そのものが持つ物語性があることも自分の中では分かっていて、釈然としない中の迷いが出てくる。
東京ってなんなのさ。
そういうことを考えさせてくれるキッカケになったので、結果、楽しんだのは間違いない。もう少し考えてみたいテーマ。
あと、日本全国のサブカル系図書館、ミュージアムの地図があって、出来たばかりの見知っているところが早速掲載されてた。そして製作者がありらいおんさんだった。
観るよりスマホ
東京都現代美術館で、現在(今週末まで)開催中の企画展三展をはしごしたので感想。
▼
その1「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」。
とりあえず身もふたもないこと言うけど、光系のアートは映えるな!どの部屋に入ってもみんなまずやることは「観る」より先に「スマホを構える」。
や、アートの鑑賞なんて人それぞれ好きなモチベーションですればいいし、作者の手から放たれた後は鑑賞者の自由だとはワシも思う。でも、どうしても作者のコンセプトや想いよりも、この場で撮影されてSNSに上がって消費されているのでは、と感じてしまった。本展が、今の三展の中で唯一入場に時間が掛かるのも、然もありなん。
まぁ、ワシも他人の事は言えないけどね。
正直ワシも、作者の込めた意図よりも見た目のインパクトに翻弄された。どのように作ってるのかな、という仕掛けも含めて。できればその先にまで意識を持っていきたかったが、それはそれで難しかったのも事実。
ただ、そういった小難しいことを抜きに考えたら、見ていて心地よい作品群だったのも確かで。その点で、作品について思考する時間と、鑑賞者の心に溝を刻むことは出来ているので、いい作品だな、と素直に思う。
▼
その2「カディスト・アート・ファウンデーションとの共同企画展 もつれるものたち」
これは、難しかった!先のエリアソン氏の作品が直感的に味わえるのに比べると、こちらはコンテクストありきで臨まないと腑に落ちないものが多く、頭でっかちなワシは解説シート首っ引きで鑑賞。
そんな中、磯辺行久氏の、赴いた場所の地図に感じたものを描いた作品は、ずっと気になり続けている「地図を用いた表現」の新しい形を見させてもらった感で、個人的にはお気に入り。まぁこれも、個人的なコンテクストありきではあるのだけど。
▼
その3「おさなごころを、きみに」。
こちらもそこそこ話題で、そこそこの混雑。実は今回一番事前の期待値が高かった展示なのだけど、ちょっと期待値を上げすぎてたかも。
というとネガティブに聞こえるかもしれないけどそんなことはなく、ただ、思ったほど直感的ではなかったな、と。
や、勝手な思い込みだとは思うけど、やはり「おさなごころ」と言われると、より感覚的なものを想像するじゃないですか。で、実際そういう展示なのだけど、その背景が思った以上にややこしくて(ワシにはそう感じられて)、結果、思ったほどおさなごこらなかった(変な日本語)。
でもま、大好きなのら文字がたくさん見られたことと、1980年代に作られた二言絶句集の中に「令和」の文字があったってくだりは好き。
ついでに、新しい名前を作ってくれるプログラムでは、【川西 ダイアナ 奈々美】とゴテゴテの名付けをされたので良き。
あと、最後の、気象衛星の表現に関するくだりと、「1家に一枚 宇宙図2020」も良かった。宇宙図は本当に家に貼りたかったけど、売ってなくて残念。ワシが子供の頃、好きで雑学として学んだ天文学とは、また大きく宇宙の姿は変わっているんだろうな。
メ芸2020
第23回文化庁メディア芸術祭受賞作品展行ってきた感想。会場は今年も日本科学未来館。無料だけど、時節柄事前予約制、と言っても会場入口でも予約出来てるようだけど。
▼
毎年どんどん分からなくなるアート部門は、今年も順調によく分からないものばかりだった。「drawhearts」のコンセプトは面白かったかな。
▼
アニメーション部門、大賞は「海獣の子供」。未見なので観ねば。「天気の子」はソーシャル・インパクト賞で大納得。ごんぎつねをモチーフにしたコマ撮りアニメ「GON」はめちゃくちゃ面白そうなのでどこかで観たい。「向かうねずみ」は、手法とコンセプトがいいなー。
▼
マンガ部門は、まさかの「闇金ウシジマくん」がソーシャル・インパクト賞。最も文科省から遠そうな作品なのに。大賞、優秀賞、新人賞のはどれも読みたいなー。特に「ロボ・サピエンス前史」「ダブル」「鼻下長紳士回顧録」「未来のアラブ人」は必読としたい。漫画読んでないなぁ。
▼
エンターテインメント部門は、大賞がオリンピックもので、嗚呼、と。でもその作品「Shadows as Athletes」は、カメラワークというか撮り方が面白くて結構好き。その作品や、amazarashiの武道館ライブ(優秀賞)などを見て思ったけど、『欠落を受け手に補完させる』作品が面白みを出している。
「移動を無料に」として広告モデルでタクシー無料の仕組みも受賞していたけど、やはりこの先広告モデルって先細りするから、いっそタクシーのサブスクリプションモデルとかやっても良いよね。既にあるのかな。
あと、ちょっと衝撃だったのは、東日本大震災関連作品なんだけど、そろそろ震災後に産まれた子供たちを主題に据えた作品が出てきているんだな、ということ。まもなく10年という時は、やはり重い。